2017年10月4日水曜日

「歴史を運んだ船」を読んで

茂在乕男著 1984年 東海大学出版会
 本書はまず、「古事記」や「日本書紀」に記されている船に関する記述を抜き出し、それらの言葉のルーツを求め、それらの言葉が南方のポリネシア語に由来していることを提起します。古事記や日本書紀は当然漢字で書かれており、われわれは当然その漢字の意味を考えようとします。しかし南方系の言葉の場合、よく似た音の漢字を当て字として使い、この場合漢字の意味はほとんどありません。例えば、「軽野」とか「枯野」と記される船は、ポリネシア語のカヌーあるいはカノーの当て字ではないか推測します。また、神武天皇の東征の際に記されている「天の盤船(アマのイワフネ)」は「アウトリガー」ではないかと推測します。
 日本人のルーツはどこにあるのか、こうした疑問に対して、従来は北方系説が有力でしたが、最近では南方系も有力になっているようで、結局北方系、南方系などが混じって、日本人の祖先が形成されたと思われます。

 著者は東京商船大学の出身で、歴史家である以前に、船の愛する人であり、筆者が船について語るとき、いつも情熱がこもっているように思われました。もちろん、本書が執筆されたのは、30年以上も前で、この間に水中考古学も飛躍的に発展し、日本語への古代ポリネシア語の影響についての研究も進みましたので、本書の内容は少し古いかもしれませんが、そんなこととは関係なく、本書は非常に面白い本でした。

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