2017年3月1日水曜日

「コレラの世界史」を読んで

見市雅俊著 1994年 晶文社
 本書は、コレラという疫病を通して、世界の動向や、特に当時のイギリス社会の動向を描き出しています。その点で本書は、先に述べた「シラミとトスカナ大公」の手法と似ています。
 ペストや天然痘やチフスは、古くから知られた疫病ですが、コレラの流行は19世紀になってからです。もともと疫病は風土病であり、人間の移動などによって世界中に拡大しますが、コレラもインドの風土病でした。ところが、インドにイギリス人が進出し、彼らの移動とともにコレラ菌が世界中に拡散した分けです。コレラには、死亡率が高いこと、発病後死に至る期間が短いこと、などの特色があります。幕末期の日本でコレラが流行した時には、発病してから三日で死んでしまうということから、「三日ころり」などとも呼ばれました。
 19世紀の前半にロンドンでコレラの大流行が発生しますが、コレラ菌が発見されるのは19世紀の末であり、治療法が確立するのは20世紀になってからですから、対処法は「シラミとトスカナ大公」の17世紀と大して変わりませんでした。今日から見れば、コレラは経口感染で飲料水などから感染しますので、衛生管理が何よりも大切なのですが、当時のロンドンにはまだ上下水道が整備されておらず、排泄物はテムズ川に流され、飲料水はテムズ川の水を用いていましたから、コレラの流行を防ぎようがありません。この時代のロンドンの衛生状態と比べれば、江戸時代の江戸の方がはるかに清潔だったようです。
 本書では、コレラの流行、イギリスへの上陸、それへの対処、医療の在り方の変化、政治や社会への影響などが、相当詳しく述べられています。あまり詳しい部分は飛ばし読みしましたが、それでも大変興味深い内容でした。


0 件のコメント:

コメントを投稿