2015年11月4日水曜日

「孫子の世界」を読んで

加地伸行編 1984年に新人物往来社から出版された本が、1993年に中央文庫で再出版されました。本書は、13人の研究者がそれぞれの立場で孫子を語っており、内容が重複する部分もありますが、興味深い内容も多々ありました。なお、孫子については、このブログの「映画で中国の思想家を観て 孫子≪兵法≫大伝」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/08/blog-post_23.html)を参照して下さい。
孫子が呉のために戦った多くの戦いについては、広く伝えられていますが、なぜか司馬遷の「史記」には孫子の具体的な事績についての記述がほとんどないそうです。つまり、先の映画「孫子≪兵法≫大伝」では、孫子は多くの戦いを指揮していますが、これも伝承にすぎないかもしれない、と著者は主張しています。孫子は、戦争の実戦家というより、理論家だったようです。彼の子孫である孫臏も、一度だけ戦争に勝ったことがありますが、その後一国の政治を委ねられた時、それは失敗に終わっているそうです。孫子も孫臏も孔子も、実践という点では、あまり成功していないようです。

孫子は、もちろん中国でも広く尊敬されていますが、その読者の比率は日本の方が多いそうです。中国の官僚は、儒学を中心とした科挙に合格した人々が採用され、武官は軽視される傾向があります。それに対して、日本の江戸時代の行政担当者は武士であり、彼らは武士の教養として軍学・兵学を学んでおり、孫子は広く愛読されていました。孫子は、兵学の書というだけでなく、人間学でもありましたので、日本の武士の精神に深い影響を与えたものと思われます。

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