2015年9月12日土曜日

映画「紀元前1万年」を観て

2008年に制作されたアメリカとニュージーランドの合作映画です。紀元前1万年というと、250万年ほど続いた更新世の末期です。更新世の時代はマンモスの時代であるとともに、この時代に人類が進化していきました。そして更新世の後に、現代まで続く完新世という時代が始まり、この時代にマンモスは滅び、人間は新石器時代に入って、人類の進歩が加速化されていきます。
 マンモスは、300万年前頃から1万年前頃まで生息した巨大動物で、世界各地でその化石が発見されています。シベリアでは、化石だけではなく、永久凍土に冷凍保存されたマンモスも多数発見されています。「マンモス」という言葉は、しばしば「巨大」なものの代名詞として用いられますが、実際には今日のアフリカゾウやインドゾウと比べて、大差ないようです。ただ、牙が異常に発達していたことが、大きな特徴です。マンモスが滅びた理由については、いろいろ考えられています。気候変動による植生の変化や、人間による乱獲、さらにウィルスによる死滅などがあります。マンモスは一度に一頭しか子供を産まないため、人間による長期にわたる狩りは、しだいに個体数の減少をもたらしたかもしれません。
 映画では、まず幾つかの前提が語られます。一つは青い目の少女エバレットの出現です。当時、「四本足の悪魔」が各地を荒らし廻り、人をさらい、彼女の両親もこの怪獣に殺されました。そして予言者は、彼女がマンモスを倒した英雄と結婚し、やがて世界を変えると予言します。「青い目」というのは白人を連想しますので、私にはやがて白人が支配する時が来ると、言っているような気がします。もう一つは、主人公デレーの父で、彼は英雄でしたが、ある時村を去り、デレーは裏切り者の子として育ちます。実は父は、マンモスの狩猟を基盤とする生き方に限界を感じ、村が安定して暮らせるような新しい生業を求めて旅立ったのですが、このことは誰も知りません。
 映画では、久々にマンモスの群れが現れ、マンモス狩りを行うことになりました。デレーもこれに参加し、幸運によりマンモスを倒すことに成功し、英雄となってエバレットと結婚できることになりました。しかし間もなく村は「四本足の悪魔」に襲われ、エバレットを含む多くの村人が誘拐されます。そのためデレーはエバレットを救うための旅に出ます。そして、ここから話は無茶苦茶になります。なんと「四本足の悪魔」というのは騎馬民族でした。人間が騎馬できるようになるには、まだ9千年ほどかかります。そして「四本足の悪魔」たちは、奴隷たちを使って「神の山(ピラミッド)」造っていました。ピラミッド建造には、まだ7千年ほど早いと思います。この間に、「四本足の悪魔」に苦しめられてきた人々が、デレーに付き従います。この人々が皆黒人で、結局黒人戦士を白人が指導する、ということになります。
 結局、デレーは「四本足の悪魔」を破り、エバレットを救出し、村に帰ることになります。その時、黒人から植物の種をもらいます。これがあれば、もはや危険な狩りをする必要がなくなり、実はこれこそが、デレーの父が探し求めていたものでした。狩猟から農耕への転換ですが、しかし農耕が始まるには、まだ5千年ほどかかります。とはいえ、あまり深く考えず、ファンタジーとして観れば、それなりに面白く観ることができます。特にマンモス狩りの場面は、よくできていたと思います。
 ところで、この映画の舞台となった場所は、どこなのでしょうか。まず赤いトウガラシを食べている場面があり、トウガラシは中南米原産なので、中南米かと思いましたが、中南米には黒人はいませんので、結局どこか分かりませんでした。それでも映画では、中南米を思わせるものがいくつかありました。16世紀に、白人がやってきて現地人を支配するとか、現地人が白人の騎馬姿を馬と人間が一つになった怪獣だと思ったとか、多分中南米に残るこうした伝説が映画でも用いられたものと思われます。
 ところで、穀物栽培という技術は、どのようにして生まれたのでしょうか。穂につく小さな粒を取り出して集め、それを食べるという発想は、驚くべきことだと思います。多分これを考え出したのは、女性でしょう。男性は狩りに行きますが、女性は植物を採集します。そして何千年もの間に、一つ一つの植物の特徴がわかってくると、どこかでそれを栽培しようという発想が生まれたに違いありません。穀物は雑草としてそこらに生えているわけですが、鳥がそれを食べるのを見ている内に、自分たちも食べられないか、と考えたのでしょう。あんな小さな粒を取り出して食べるということは、余ほど追いつめられてのことだったでしょう。しかし、一旦穀物の栽培が可能になると、穀物は保存できるため、食糧を安定的に確保することができます。今まで狩猟に専念していた男たちも、穀物生産の重要性を理解し、穀物生産は男の仕事に代わって行きます。穀物が保存できるということは、富の蓄積を可能にし、やがて文明が発展します。逆に言えば、高度な文明の発展には、穀物栽培が不可欠だったといえます。

 映画は、5千年から7千年程の間に起こった人類の進歩を、数年の出来事であるかのように描いていますが、一応筋は通っています。つまりこの映画は、マンモスの時代(狩猟・採集の時代)の終わりから、農耕の時代への転換を描いているわけです。

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