2015年7月22日水曜日

「パイオニアウーマン」を読んで

ジョアナ・ストラットン著(1981)、井尾祥子・当麻恵子訳 リブロポート(1987)
 本書は、著者の曽祖母ライラ・ディ・モンローが、1920年代にカンザス開拓地の800人の女性から集めた記録を基に書かれました。モンロー自身が開拓民の娘で、「カンザスが、何もない所から、しっかりと根の張った地域社会に発展していくのをまのあたりにして、彼女は、そこで出会った開拓地の女性の強さとしなやかな生き方に心を打たれた。そして、若い頃に受けた感動が、40年後になって、彼女をして、開拓地の女性の生活を記録し、遺産を保存することに手を染めさせたのでした。そして800人もの女性が、彼女の要請に応じてリポートを提出してくれました。しかし、彼女はそれを編集することなく死亡し、祖母がこれを受け継ぎましたが、道半ばで終わりました。そして1975年に著者が、屋根裏部屋で発見した、この膨大な資料を整理して出版したのが、本書です。

 本書は、女性の視点からのみ日々の生活を語っており、男性の視点は一切語られません。それだけに、大変興味深い内容ですが、本書には筆者自身も認めている欠点があります。つまり、このような要請に応えてリポートを提出する人は、ほとんど成功者だということであり、開拓者全体のほんの一部にすぎないと思われます。多くの人は、あるいは1年程度で諦めて帰ってしまい、あるいは長年の苦労の後に挫折して帰って行き、あるいは命を失いました。さらに本書には、開拓者たちのために土地を追われたインディアンや、黒人奴隷の声もありません。その意味においては、この本の内容は綺麗ごとと言えるかもしれません。とはいえ、開拓者の女性の生の声を聴くことができ、一読に値する本ではあります。

 なお本書の舞台となったカンザス州は、このブログの「映画でアメリカを観る(3) ダンス・ウィズ・ウルブズ」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/01/3.html)で述べたグレートプレーンズ(大平原)のほぼ中央に位置し、南北戦争前後から本格的な開拓が始まり、19世紀末にほぼ開拓時代は終わります。したがって、モンローが史料を集め始めた1920年代には、開拓時代を経験した人々がまだ沢山残っていました。


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