2015年10月7日水曜日

スコットランドを読む

スコットランド史 その意義と可能性

ロザリンド・ミチスン編(1991) 富田理恵・家入葉子訳 未来社 1998
 本書は、スコットランドの歴史を扱ったものですが、単なる通史ではなく、それぞれの時代の専門家が、それぞれの問題意識に従って書いているため、大変興味深く読むことができました。おそらく、日本語で書かれたスコットランド史の本は非常に少ないと思いますので、本書は貴重な本ではないかと思います。
 本書を読んで一番驚いたのは、今日でも、スコットランド人でさえスコットランドの歴史をあまり知らないということです。イギリスの学校ではブリテン史という教科書が使われており、それはほとんどイングランド史であり、スコットランド、ウェールズ、アイルランドが登場するのは、イングランドと対立した時ばかりだそうです。そしてイギリスの公務員試験では「ブリテン史」が出題されるため、スコットランド人でさえイングランド史を学び、スコットランド史を体系的に学ぶことがないそうです。
 もっとも、スコットランド史についての学問的研究の歴史自体が浅く、体系的にスコットランド史を語ることが難しいようです。編者自身、「誰でも過去の記憶がなくなれば、人格そのものが壊れてします」「スコットランド史の優位性を語っているのではない。スコットランド史は一つの分野として研究する価値がある」と述べています。多くのスコットランド人は、シェイクスピアの「マクベス」や、このブログでも取り上げた「映画で西欧中世を観て(5)  ブレイブハート」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/07/5.html)や「映画で17世紀のイギリスを観て ロブ・ロイ/ロマンに生きた男」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/search?updated-min=2015-01-01T00:00:00%2B09:00&updated-max=2016-01-01T00:00:00%2B09:00&max-results=50)など、伝説的な事件や人物については知られているのですが、全体像が知られていないようです。
 スコットランドは、常に貴族たちの対立のため統一的な行動をとれず、結局1707年にイングランドに併合された、というのが従来の認識であり、それ私の認識でもありました。しかし、これは1707年の併合を肯定的に捉える立場の見解でした。それによれば、17世紀のスコットランドは「混乱を極めた不幸な時代」であり、併合以降のスコットランドは進歩の時代ということになります。したがって、本書は17世紀の歴史を再評価する必要があると説いています。「併合」を肯定的に捉えるか、否定的にとらえるかはともかくとして、より客観的に前提となる17世紀の客観的な歴史研究が必要だと主張されています。
 本書を読んで、私は少なからずショックを受けました。私がスコットランドについて知っていた僅かな知識は、すべてイングランドから見たスコットランドであり、それは完全に間違っていました。むしろ、スコットランドからイングランドを、ブリテンを、そして世界を見る必要がありました。私の知識は、何時まで立っても誤解だらけの知識です。

とびきり悲しいスコットランド史

フランク・レンウィック著(1986) 小林章夫訳 ちくま文庫 1998年 
スコットランド史上の人物や事件についての、読み切りのエピソード集で、ビーカー族の時代から1707年までを扱っています。原題は「流血のスコットランド」で、全編言いたい放題という感じですので、どこまで真に受けてよいのか分かりかねますが、面白い本ではあります。
スコットランドにキリスト教を伝えた聖コロンバも、彼によれば、アイルランドで人を殺して逃げ、スコットランドの素朴な土着の宗教を排除し、キリスト教を普及させたらしい、ということになります。確かに、そう云えなくもりません。スコットランドの併合について、スコットランドの議員たちは充分な年金を受け取った上で、買収資金としてロンドンから馬車で運ばれた394085ポンド10シリングを皆で分け合った。これは歴史上最も大規模な売国行為であった。確かに、そうかもしれません。
「スコットランド人はつまらない言い争いと激しい内輪もめを延々と繰り返すという、どうしようもない傾向があり、また我が身の破滅をもたらすほど極端な行動に走りやすい国民なのである。」「スコットランドが衰微した原因は、国民が何事も私益を優先し、自分たちの栄進ばかりを願ったことにある。その状況はいまでもそう変わらないだろう。」

このように全体にシニカルな言葉が溢れていますが、その背後にはスコットランドの歴史への「哀しみ」と「愛情」を読み取ることができるように思います。

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