2019年3月9日土曜日

映画「ツタンカーメンの秘宝」を観て

2006年にアメリカ合衆国とスペインで制作されたテレビ映画ですが、私は完全に勘違いしていました。前に観た映画「トロイの秘宝を追え」が発掘者シュリーマンの物語だったので、「ツタンカーメンの秘宝」も当然発掘者カーターの物語だと思っていましたが、これは完全にファンタスティック・アドベンチュア映画でした。
 ツタンカーメンは紀元前14世紀の古代エジプトのファラオで、父が宗教改革を行ったアメンホテプ4世です。ツタンカーメン自身は18歳で死んでいるため、政治的に大きな役割を果たしたとは思えませんが、彼が注目を集めたのは、考古学者カーターによる彼の墓の発掘の故でした。エジプトのファラオの墓は数えきれないほど発掘されていますが、そのほとんどが盗掘のため空同然でしたが、ツタンカーメンの墓はほとんど手つかずのまま残ったので、驚くべき量の副葬品が発見され、それらは今日も世界中で展示され続けています。
 盗掘がどのよう行われたのかについては諸説ありますが、墓を建造した役人が完成直後に盗掘したとか、墓の周辺に盗人村があり、その村の人びとが代々盗掘で生計を立てていたとか、いろいろあります。いずれにしても盗掘された金銀は、熔かされて副葬品となり、別のファラオの墓に埋められるわけです。そうした中でツタンカーメンの墓は、ほとんど手つかずで残ったため、その理由を説明するためにさまざまな推測がなされ、さまざまな物語が生み出されました。

 この物語では、ツタンカーメンは太陽神ラーの命令で悪魔と戦い、悪魔を封じ込めて自らは地中に去っていきますが、最近(20世紀)になって悪魔が復活しそうになったため、美男美女の考古学者がツタンカーメンの墓を発掘してツタンカーメンを復活させ、悪魔をやっつける、という話です。最後に美男美女はカーターという冴えない考古学者にツタンカーメンの墓の発掘の栄誉を与えて去っていくという話です。それが1922年で、この年号だけが史実と一致していますが、全体としてはつまらない映画でした。むしろカーターの発掘物語こそが真に面白いドラマであり、私はこの映画にこれを期待していたのですが、それとはまったく関係のない映画でした。
 映画があまりにつまらなかったので、図書館でツタンカーメンの発掘に関する本を借りてきました。「図説 ツタンカーメン発掘秘史」(レナード・コットレル著、1965年、前田耕作監修、暮田愛訳、原書房、2012)です。ツタンカーメンについては、すでに何十年も前に何冊もの本を読んであり、本書も特に新たに付け加える内容はありませんでしたが、著者がジャーナリストであることもあって、多くの図版を用いて生き生きと描かれているため、大変面白く読むことができました。
 シュリーマンとカーターの違いは、シュリーマンが発見したのはまったく未知のミケーネ文明であり、また彼は考古学的な発掘手法を無視して宝物にたどり着きました。これに対してカーターが発掘したものは、すでにヒエログリフで知られているものばかりでしたが、まだ誰も実物を見たことがありませんでした。また彼は可能な限り科学的手法にしたがいました。例えば布のように外気に弱い遺品は慎重に保存措置をほどこしまた。さらに玄室が目前にありましたが、これを封印し、前室や周辺の部屋を徹底的に調査し終わるまで玄室には入りませんでした。

 今回、本書で私が知った事実が一つあります。それはすでに読んだのに忘れていたのかもしれません。前に、この墓が手つかずで発見されたと言いましたが、厳密には盗人が入った痕跡がありました。おそらく墓が完成してまもなく、盗人が貴金属類を持ち出そうとして、何者かに邪魔をされて、持ち出そうとした貴金属類を放置して逃げ出したようです。以後、3千年以上この墓にはだれも入った形跡はないようです。3千年以上前に、一体誰が盗みに入り、誰がそれを阻止したのか、そうしたことを考えるだけでわくわくします。

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