吉田一彦編 平凡社 2011年
本書は、9人の研究者が、聖徳太子の伝承の由来を論じています。私はかつて、哲学者・梅原猛著「隠された十字架」を読みました。梅原氏はこの本で、法隆寺が聖徳太子の怨霊を鎮めるために建立されたと主張し、当時大変話題となりました。以来今日に至るまで、聖徳太子虚構説も含めて、聖徳太子について様々に論じられてきました。この点について私にはコメントする資格がまったくありませんが、個人的には聖徳太子の実在まで疑う必要はないように思います。今日、ほぼ一致した見解とされているのは、聖徳太子像なるものは、「日本書紀」で創造あるいは捏造されたということであろうと思います。
本書は、こうしたことを前提として、9人の研究者がさまざまな視点から、聖徳太子伝説の形成について語ります。本書によれば、聖徳太子伝説がいつ生まれたかは別として、聖徳太子が創建に関わる二つの寺院、つまり四天王寺と法隆寺のライバル関係が、聖徳太子伝説を膨らませる上で大きな役割を果たしたとのことです。つまり、それぞれの寺院が太子との関係性の強さを強調するため、いろいろな伝説を生み出していったとのことです。そうした過程で、聖徳太子信仰は民衆に深く浸透していきました。
本書では、太子による蝦夷征服伝説など、大変興味深い問題が多数論じられていますが、私には、資料を用いた実証的な研究論文を読むことは無理であるため、残念ながらすべてを読むことはできませんでした。
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