2016年4月20日水曜日

「偉大なる道 上下」を読んで


アグネス・スメドレー著 阿部知二訳、岩波書店 1977
 本書は、アメリカのジャーナリストであるスメドレーが、中国共産軍の将軍朱徳の半生を描いたものです。スメドレーは、1892年にアメリカのミズーリ州の貧しい農家に生まれ、苦学してジャーナリストとなり、やがてインドの独立運動に関心を持ち、1928年に特派員として中国に派遣されます。以後、12年間、彼女は中国共産党に密着し、常に前線で取材を続けました。この頃の中国には、「大地」(「映画「大地」を観て」http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html)を著したパール・バックや「中国の赤い星」を著したエドガー・スノーなどが滞在しており、彼女と親交がありました。この間に彼女は、共産党軍の司令官だった朱徳に密着取材し、彼から聞いた話をもとに本書を書き上げました。文庫本2冊で700ページを超す大著です。
 朱徳は、四川省の客家の小作農に生まれますが、幸いにして教育を受ける機会に恵まれ、新軍の将校となり、やがて国民党軍・共産党軍で活躍する生粋の軍人でした。その後彼は毛沢東と同盟を結び、以後毛沢東と朱徳は一心同体となって革命運動を続けていきます。中華人民共和国の成立後、彼は高い地位に就き、毛沢東との友情も続きますが、権力への野心はあまりなく、197689歳で死去します。そしてこの年に、毛沢東・周恩来も死去します。革命第一世代の終わりです。
 本書は、朱徳の話をもとに、少年時代から日中戦争までの朱徳の半生を描いています。貧しかった朱徳の生活を通して、当時の中国農村社会がどのようなものであったが描き出されます。また軍人・革命家としての活動を描く過程で、当時の中国の政治・社会情勢が分かりやすく解説されています。ただ全体にスメドレーの思い入れが強く、かなり美化されているかもしれませんが、何と言っても長期に及ぶ前線での密着取材に基づいていますので、その資料的価値は極めて大きいと思われます。
 彼女は、1941年、真珠湾攻撃直前に帰国し、本書の執筆を開始します。彼女は、印税などの収入を、ほとんど中国の戦災孤児の救援のために寄付していましたので、貧しい生活の中で執筆を続けました。ところが冷戦が本格化し、さらに中華人民共和国が成立すると、アメリカでヒステリックな赤狩り旋風が吹き荒れるようなり、その結果、本書の出版を引き受ける出版社がなくなってしまい、彼女自身がスパイとしてFBIに監視されるようになりました。結局彼女は、本書を出版することなく、1950年に胃潰瘍で死亡しました。58歳でした。そして、1955年に日本語に翻訳されて、岩波書店で出版されることになりました。私が読んだのは、岩波文庫の1977年版です。本書がアメリカで再発見されるのは、ヴェトナム戦争後のことでした。

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