2020年7月8日水曜日

映画「提督の艦隊」を観て

















2015年にオランダで制作された映画で、17世紀後半におけるオランダとイギリスの存亡かけた戦い(英蘭戦争)を、オランダ海軍提督ミヒール・デ・ロイテルを中心に描いています。原題は「ミヒール・デ・ロイテル」で、邦題は意味がよく分かりません。なおこの時代のオランダについては、このブログの「第19章 17世紀-オランダの世紀」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2014/01/1917.html)を参照して下さい。
オランダは国際商業に生きる国であり、そのために大洋を自由に航海できることが不可欠であり、それを妨害しようとしたのがイギリスで、その結果三度に及ぶ英蘭戦争が行われます。一方国内では、1581年にオランダが独立して以来、代々オラニエ公ウィレムが総督を務めていました。そしてオランダでは常に、オラニエ公ウィレムが王となって王国となるべきか、それとも総督のままで共和国が維持されるべきかという対立があり、この対立が、ロイテル提督を翻弄することになります。
ロイテルは、11歳で船乗りとなり、多くの経験を積んで、30歳ころには商船の船長となっていました。1652年にイギリス海軍がイギリス海峡を通過するオランダ商船を拿捕し始めたため、第一次英蘭戦争が勃発し、オランダの提督が戦死してオランダはイギリス海峡の制海権を失います。1665年、王政復古時代のチャールズ2世が新大陸のオランダ領ニューアムステルダムを攻撃したことから、第二次英蘭戦争か勃発します。この戦争でオランダは、政治的配慮から陸軍出身者を提督に任命したため、またも提督が戦死し、オランダは危機に陥ります。こうした中で、貴族身分でもないロイテルが提督に任命されます。
ロイテルは、勇猛かつ戦術に精通していることで知られ、たちまちイギリス艦隊に大損害を与え、イギリスとの和平が締結されます。次いで、1672年にフランスとイギリスが同盟して陸と海からオランダを攻撃し、第三次英蘭戦争が勃発します。今回もロイテルは巧みな戦略でイギリス艦隊に勝利し、結局イギリスのチャールズ2世は、彼の後継者で弟であるジェームズ(後のジェームズ2)の娘メアリをウィリアム3世に嫁がせて、和平を締結します。一方、今や国民的な英雄となっていたロイテルは、権力の確立を目指すウィリアム3世にとっては邪魔な存在となり、映画では、1675年に意図的にロイテルは勝ち目のない戦場に送られて戦死したとされます。
1689年にイギリスで名誉革命が起き、ジェームズ2世が追放されると、彼の妹メアリとその夫ウィリアム3世がイギリス国王として招かれます。これによって、あたかもオランダがイギリスを制圧したかのように思われますが、事実は逆で、その後長い年月をかけてオランダはイギリスに飲み込まれていくことになります。

映画は、ミヒール・デ・ロイテルという、日本では馴染みのないオランダの提督を扱っていますが、英蘭戦争の経過、戦闘場面、国内情勢が詳しく描かれており、私には大変参考になる映画でした。なおロイテルの肖像は、かつてオランダで発行されていた紙幣の肖像として用いられていたそうです。







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