2011年のポーランド・ドイツ・カナダ合作の映画で、第二次世界大戦中におけるポーランドでのユダヤ人迫害を描いた、事実に基づいた映画です。ポーランドにおけるユダヤ人問題については、「ポーランド映画「国家の女 リトルローズ」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2019/06/blog-post_5.html)を参照して下さい。
映画の舞台はポーランドのルブウ(現在のウクライナ領)で、かつてはソ連領でしたが、独ソ戦争が始まってドイツ領となります。したがって映画では、ポーランド語、ウクライナ語、ロシア語、ドイツ語、イディッシュ語(東欧系ヘブライ語)が飛び交っています。主人公のソハは地下水道の保守管理を仕事としていましたが、生活の足しに空き巣も働いているという小悪党です。その彼に、ある時奇妙な仕事が転がり込みます。つまり、強制収容所に送られそうなユダヤ人を地下水道に匿ってくれというのです。このような行為は、もしドイツ軍に見つかれば処刑されるというリスクがありましたが、毎日一定額の礼金をもらえますので、ソハはユダヤ人から金を搾り取るつもりで引き受けました。
ソハは、匿うのは数人だと思っていましたが、やってきたのは子供を含む20数人の男女でした。ソハは今さら断れず、彼らを地下水道に匿うのですが、その後の地下水道での日々は地獄でした。地下水道は真っ暗であり、外に光が漏れないように明かりは最小限度しか使えず、下水が流れる臭くて不潔な場所で20数人が寝起きするわけです。時には子供たちが外に出たいといって泣きじゃくり、時には大人たちが罵りあって喧嘩をします。また、真っ暗な中での雑魚寝であるため、セックスをする男女もおり、その結果ある女性が妊娠し、出産し、そしてその子を絞め殺します。まさに地獄です。人間の生きることへの逞しさと醜さを、思いきり見せつけられる思いです。
20数人いたユダヤ人は、途中で逃げ出したり、洪水で地下水道が満水となって死んだりして、今や10人ほどになっていました。しかもユダヤ人たちには、もうソハに払う金はありませんでした。ソハは決して善人というわけではありませんでしたが、今更ユダヤ人たちを見捨てるわけにはいかず、自腹を切って援助し続けました。そして1945年5月12日にソ連軍が到着し、ドイツ軍が追い出されます。実に14カ月ぶりにユダヤ人は日の当たる場所にでるとができ、皆大喜びして抱き合い、ソハは自分のことのように喜ぶのてすが、それを見ていた町の人たちは、なぜユダヤ人なんかを助けたのだ、というような眼をして、冷ややかに見つめていたのが印象的でした。
最後にテロップで次の言葉が流されます。
「ソハは、ソ連軍の暴走車から娘を守り死にました。この時、彼がユダヤ人を助けたから天罰が下ったという者もいました。人間は神を利用してまでお互いを罰したがる。成長したグリシャは、2008年に体験記を出版しました。生き残った彼らはその後イスラエルなどに移住しました。ソハ夫人など6000名のポーランド人が表彰されました。本作は、彼ら全員に捧げるものです。」 なお、グリシャは、写真の上部のマンホールから少しだけ顔を出している少女です。
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