ローレは14歳の少女で、父母ともナチスの幹部で、父は強制収容所に勤務し、母は遺伝病子孫予防法(強制断種法)に関わっており、さらにナチスの理想どおりゲルマン人の純血種を5人も産んでいました。ドイツの敗北が決定的となると、両親は大量の書類を焼却し、連合軍に自首するため家を出て行きました。後に残されたのはローレと、2歳年下の妹、双子の兄弟、乳児で、ローレは母にハンブルクの祖母の家に行くように言われていました。今やすべてが、14歳の少女の肩に背負わされることになりました。
彼女たちはナチスの家族であるため身分証がなく、汽車の切符を買えず、徒歩で行くしかありません。また、当時のドイツは、イギリス・フランス・アメリカ・ソ連の四か国で分割占領されていたため、検問を通る度に身分証が必要です。さらに自分たちの食料や乳児のミルクを調達せねばなりません。そんな中で、たまたまナチスがユダヤ人に何をしたのか、そして父がそこでどんな役割を果たしたのかを知ります。今までの愛情にあふれた家族は、すべて虚構だったのです。しかし今の彼女には、感傷に耽っている暇はありませんでした。4人の弟や妹をハンブルクまで連れて行かねばなりませんでした。時には体を売ろうとしたことさえあり、殺人に関わることさえありました。そして双子の兄弟の一人が死にました。
ハンブルクに着いた時、祖母は孫たちを温かく迎えてくれました。兄弟はようやく安らぎの場に着いたのです。祖母は相変わらずナチスの思想を信じ、父母が行ったことは正しかったと力説していました。しかしローレはもはや家を出た時の少女ではありませんでした。ナチス党員の家族として、多くの苦しみを味わってきました。この苦しみは彼女だけのものではなく、ナチスだった人やその家族の多くが味わった苦しみです。多くの人が身を隠し、ひっそりと生きてきましたが、ドイツ政府は今でもナチスの生き残りを探しています。
ただ、この映画のテーマは多分ナチスの家族の苦しみではないと思います。ナチスの家族としての苦しみを通して、あどけない一人の少女が大人の女性に変貌していく過程がえがかれているのだと思います。この映画の原題は「ローレ」であり、「さよなら、アドルフ」という邦題は幾分誤解を招くテーマです。ただし、邦題が「ローレ」だったら、私がこの映画に出会うことはなかったでしょう。
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