キアーラ・フルゴーニ著、2001年、高橋友子訳、岩波書店、2010年
本書の原題は「鼻の上の中世」で、つまりメガネのことです。「メガネが本当に偉大な発見だったことは、重ねて強調しておかなければならない。拡大レンズを使うと老眼でも物が見えるのは、物のサイズを大きくするからだ。それに対して、メガネの両凸レンズは老眼になった水晶体の不十分な凸状を補うので、実物大でくっきりと物体を見せてくれる。いうなればメガネは目と一体化し、レンズは物と一体化する。」歳をとれば誰もが老眼となり、本を読んだり、細かな細工をしたりすることが困難になります。メガネの発見(著者はあえて「発見」という言葉を使います)は、我々に多大な恩恵をもたらし、それは少なくとも13世紀には存在していたそうです。
今日われわれが空気のように当たり前に用いているものの多くが、中世に起源があります。例えば「キリスト紀元」という暦の考え方は中世に生まれたこと、下穿きの歴史、フォークの登場など、本書は「鼻の上」という一見些細な事柄に注目し、こだわります。こうした細部にも様々な歴史があり、それが歴史をさまざまな局面から描き出します。少し言い過ぎかもしれませんが、細部の中に普遍性が存在するということです。その意味で本書は、カルロ・ギンズブルグの「チーズとうじ虫」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/01/blog-post_8234.html)に共通するものがあるように思います。
また本書は多くの図像を用い、その図像に描かれた些細な事柄から、新しい事実を発掘していく手法は見事でした。特に、ほとんどの民衆が読み書きできなかった時代においては、図像の解析は特に重要であろうと思います。
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