G・オオイシ著、1989年、染谷清一郎訳、岩波書(1989年)
本書は、第二次世界大戦中の強制収容の時代を挟んで、日系2世として生きた一人のジャーナリストの半生の回顧録です。
1941年12月に日本軍によって真珠湾が攻撃されると、翌1942年に大統領F.ローズヴェルトは、日系移民の反米活動を憂慮して、日系人の収容所への強制的な収監を決定しました。その結果、11万人を超える日系人が、1946年まで強制収容所で暮らすことになります。この政策は明らかに人種差別でした。同じアメリカの敵国であるイタリアやドイツの移民は、強制移住されなかったのです。多くの日本人が財産を捨てることを強いられ、手荷物一つで強制収容所に向かう姿は、同じころのドイツでのユダヤ人の姿と大差ないでしょう。
著者は、1903年に父がアメリカに移住し、1933年にカリフォルニアで8人兄弟の末っ子として生まれました。そして1942年8歳の時強制収容所に送られました。そこでは粗末な小屋を与えられ、苦しい生活を強いられますが、問題はそのことではなく、この間に受けた心の傷でした。「まさしくぼくは、砂漠の中で、生きながら食い荒らされたのだった。蟻にではなく、猜疑心というやつに。ぼくは自分に疑問をもち、アメリカ人であることに疑問をもった。自分や両親、ひいては日系人一般には、何かしら悪いところがあるのではないか、という考えにさいなまれた。」それはまさに、引き裂かれたアイデンティティでした。
その後筆者はアメリカ人女性と結婚し、ジャーナリストとしても一定の成功をおさめますが、心の傷はなかなか癒えませんでした。ほとんどの日系人は、戦争が終わった後も、強制収容という言葉を嫌い、「疎開」という言葉を使ったようです。そうした中で、筆者は自分のアイデンティティを取り戻すためにも、本書を著したとのことです。「日系人強制収容」についてほとんど何も知らなかった私にとっても、本書は興味深い内容でした。
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