2011年にリトアニアで制作された映画で、19世紀後半にリトアニアで活躍した、実在したとされる反逆者タダス・ブリンダを描いています。原題は、直訳すれば「始まり」です。少なくとも、この写真に示されているような場面は、映画にはありません。
リトアニアはバルト三国の一つで、1990年にソ連邦から独立し、ソ連邦崩壊のきっかけとなった国の一つです。リトアニアは、13世紀に大公国が成立して以降急速に成長し、ポーランドと同君連合を結成し、14世紀末にはバルト海から黒海に至る広大な地域を支配するようになります。しかし、15世紀末にロシアでモスクワ大公国が台頭すると、リトアニアはポーランドへの従属を強め、18世紀末にポーランドが分割される過程で、リトアニアはロシア領となります。19世紀にロシアは、ポーランドやリトアニアに対して徹底した同化政策を行ったため、両国は1831年と1863年に反乱を起こします。そして映画の舞台となったのは、1863年におけるリトアニアでの反乱の背景です。
当時のリトアニアやポーランドは自立性の高い領主が農奴を支配し、過酷な収奪を行っていました。またリトアニアにはポーランド人の領主もおり、彼らを通してロシアはリトアニアを支配していました。そして彼らはロシアの後ろ盾で自らの利権を維持していました。それに対して、タダス・ブリンダのような若者が、ロシア軍や領主を襲ったりしていました。こうした中で、1861年にロシア皇帝アレクサンドル2世は、農奴解放令を発布します。それは、リトアニアやポーランドを含むロシア領に適用されることになりますが、これに対して農奴は喜びますが、領主は不満で、両者の対立が顕在化します。結局農奴解放令は、リトアニアとロシアの対立ではなく、リトアニア内部の対立になってしまい、タダス・ブリンダたちは理念のないただの山賊でしかありませんでした。
そうした中で、あるリトアニアの領主が、自分の土地を農奴に与えるので、リトアニアの大地のためにロシアと戦えと、タダスに説得し、彼は初めてリトアニア人としてのアイデンティティをもつようになります。これが、ロシアに対する反逆の「始まり」です。映画はここで終わっていますが、1863年に農奴に対して土地も解放されるのですが、この解放は有償であったため、農奴の生活は前よりひどくなったとされます。そのため、この頃からロシア、ポーランド、リトアニアなどで農民反乱が頻発し、この反乱にはタダスも加わっていたはずです。
第一次世界大戦末期の1918年にリトアニアは独立を宣言しますが、第二次世界大戦中の1940年にソ連軍に占領され、第二次世界大戦後にはソ連邦に編入されることになります。そして1990年、ソ連のペレストロイカの影響を受けて独立を宣言し、NATOやEUにも加盟するなど、比較的安定した国造りが進んでいますが、意外にもリトアニアでは自殺と殺人事件が多いことでも知られています。その理由は、リトアニア国民としてのアイデンティティが十分に形成されておらず、精神的に不安定な人が多いからではないかとされています。
映画は内容が複雑で、理解するのに苦労しました。主人公はちょっとドジで、それほど英雄的な人物ではありません。ただ、一人の農奴だった男が、どのようにしてリトアニア人としての自覚を形成していったのかということが、描かれているように思いました。
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