2016年10月12日水曜日

「万里の興亡」を読んで



西野広祥著 1998年 徳間書店
 本書は、中国の長城について、中国・遊牧騎馬民族、さらにユーラシア全体を視野に入れて、その存在価値を論じています。長城の建設には、莫大な資金と労力を必要とし、これだけ努力して建設したのに、何度も異民族に越えられているため、長城は無用の長物と考えられてきました。しかし、始皇帝が匈奴討伐を強く主張したのに対し、李斯は大軍で匈奴に立ち向かっても、彼らは鳥のように散って行くだけであるとして、長城の建設を建策したとのことです。確かに長城建設には莫大な費用と労力がかかりますが、遊牧騎馬民族の侵入によって民衆が受ける被害と苦しみを考えれば、長城の存在は民衆に一定の平安をもたらしたかもしれません。そして長城は壮大であればある程、遊牧騎馬民族の侵入の意志を挫く役割りを果たすそうです。本書は、こうした観点から、長城が果たした役割を、中国の全時代を通じて論じています。

 なお、著者は馬についてかなり詳しく述べており、大変興味深い内容でした。ヨーロッパが大型のサラブレッドを生み出したのに対して、遊牧騎馬民の馬は今日に至るまで小型なのだそうです。ヨーロッパでは、騎士が重装備で馬に乗るため、大型でないと耐えられないのですが、モンゴル人は軽装で、しかも長距離を移動するため、小型で丈夫な馬を求めるのだそうです。サラブレッドは穀物を食べさせて大型化されましたので、穀物どころか草さえもろくにない砂漠地帯を長距離旅することは困難ですが、遊牧騎馬民の馬は粗食や悪路に耐え、長距離を旅することができます。この馬が、広大な遊牧帝国の建設を可能にしたのであり、後に大型馬を知った後も、遊牧騎馬民は決して彼らの馬を「改良」することはなかったとのことです。

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