2016年9月14日水曜日

「中国文明史」を読んで

ヴォルフラム・エーバーハルト著(1980)、大室幹雄・松平いを子訳、筑摩書房(1991)。本書の原題は「中国の歴史」ですが、本書は中国史を民族学的・社会学的な視点で叙述されているため、「中国文明史」と訳したとのことです。著者はドイツで生まれ、中国史の研究を皮切りに、トルコなど西アジア地域を広範囲に調査・研究し、後にアメリカで教鞭をとります。
 私は、過去に多くの中国通史を読みましたが、そのほとんどが「正史」の強い匂いがして、うんざりしていました。「正史」は中国史の基盤ですので、当然と言えば当然のことです。ただ、私が最後に読んだ通史は、「図説中国文明史」(10巻、2006年、創元社)で、最新の発掘調査などをもとにしており、今までとは異なる中国の通史で、中国史の研究も新しい段階にきていると感じました。
 本書は、「図説中国文明史」より何十年も前に書かれたものであり、しかも5000年におよぶ中国の歴史を、日本語版で350ページ余りで書いているため、内容的にはほとんど知っていることでした。ただ、「正史」の世界では、常に文明と野蛮、漢人と蛮人の境界が設けられ、私たちも無意識のうちに中国を特別なものとして考えがちです。しかし、本書を読んでいると、そのような境界など何もないことを感じます。

 そもそも、ヨーロッパと中国を地続きで繋がっており、筆者はヨーロッパと中国の間にある西アジアについても造詣が深く、何の違和感もなく中国をユーラシア大陸の一部として語ります。本書は、ヨーロッパ史を読んでいるような感覚で中国史を読むことができ、また、従来とは全く異なる中国史を見ることができるように思いました。

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