2003年にフランスで制作された映画で、デフォーの「ロビンソン・クルーソー漂流記」を映画化したものです。「ロビンソン・クルーソー」については、他にもたくさん映画化されていますが、たまたま私が観たのが、このフランス語版の映画でした。
デフォーは、1660年にロンドンで生まれ、1731年に死亡します。この時期のイギリスは、王政復古、名誉革命、ペストの流行、ロンドン大火、オランダやフランスとの戦争など、激動の時代でした。またこの時代は、イギリスの海外進出が本格化しつつあった時代でもありました。この間にデフォーは、商売をやったり、政治に手を出したりして、浮き沈みの激しい人生を送っていました。そうした中で、彼は小説を書くようになり、1719年、59歳の時「ロビンソン・クルーソー」が出版されて、大成功をおさめます。
実はこの物語は、実際に無人島で生活したセルカークという人物をモデルとしています。セルカークはスコットランドの船乗りで、1704年に船長と争ってチリ沖合の無人島に置き去りにされ、1709年に救出されました。実に、4年以上無人島で一人で暮らした分けです。この島はファン・フェルナンデス諸島の一つで、今日ではロビンソン・クルーソー島と呼ばれています。この話は当時大変評判となり、デフォーはこの話をもとに「ロビンソン・クルーソー」を執筆しました。ただし、「ロビンソン・クルーソー」の舞台となった島は、ベネズエラ沖合のカリブ海の島ということになっています。
ロビンソン・クルーソーは、イングランドのヨークで生まれ、放浪癖があって船乗りになり、世界各地を転々とし後、ブラジルでサトウキビ農園を始めて成功します。農園が人手不足だったため、彼は奴隷を買い付けるため出帆しますが、船が難破し、無人島に一人取り残されます。そしてロビンソンは、1659年、27歳の時から、1687年まで28年間もの間、一人で無人島で暮らすことになります(厳密には、近隣の島の現地人フライデーが途中で参加)。映画では、なぜか1744年から1759年までの15年間ということになっていますが、理由は分かりません。
彼は、沖合に座礁している船から、出来る限り多くの物を持ち出し、家を建て、野生の山羊を飼い、麦を蒔き、さらに毎日聖書を読み、日記をつけます。野蛮の地において、彼はできる限り文明生活を維持しようと努力します。誰もいない無人島でスーツを着、ネクタイをしたりして、その姿はほとんど滑稽です。映画は、こうしたロビンソンの姿をコミカルに描いています。
マックス・ヴェーバーは「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」において、ロビンソン・クルーソーこそ、日々努力し、少しずつ蓄積していく中産市民層、つまり近代合理的精神の典型であるとし、この説は大塚史学にも受け継がれました。もし、このようにロビンソン・クルーソーが近代的市民の模範であるとするなら、その7年後に出版されたスウィフトの「ガリヴァー旅行記」は、その対極にあると思います。一般に「ガリヴァー旅行記」は、子供向けの物語として読まれることが多いのですが、実際には世界最高の風刺文学の一つとされ、そこには当時のイギリスを中心とするヨーロッパの政治・社会・道徳などに対する痛烈な批判が込められています。
「ガリヴァー旅行記」は何度も映画されていますが、そのほとんどが子供向けの冒険物語です。ただ、1996年にアメリカ・イギリスの合作でテレビ用連続番組として制作された「ガリバー/小人の国・大人の国」「ガリバー2/天空の国・馬の国」は、原作に近い描き方をしているようです。このドラマでは、帰国した後に精神病院に収監されたガリヴァーが、精神病院の中で、今まで経験してきたことを振り返るという形で物語が進められます。このドラマは、以前NHKで放映されたようですが、DVD化されていないため、観ることができませんでした。
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