堀川哲男著 1966年人物往来社から刊行、1997年中公文庫で復刻。
本書はかなり古い本で、私も阿片戦争については色々な本も読んだし、映画も見ました。映画「阿片戦争」については、このブログの「映画で中国清朝の滅亡を観て 阿片戦争」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html)を参照して下さい。ただ、林則徐の伝記を読んだのは初めてで、著者自身も、本書以前に林則徐に関する伝記が、中国にも日本にも一冊もなかったことに驚いています。林則徐といえば、阿片撲滅に敢然と立ち向かった中国の英雄であり、もし道光帝が弱気になって林則徐を罷免していなければ、その後の中国の歴史は、かなり変わっていたかもしれません。
本書によると林則徐は、清廉で有能な、普通の官僚でした。「林則徐は陽性の男だった。平生でも、友人や部下を家に集めて陽気に飲み食いするのが好きであった。また好んで友人や知人を訪問したし、当時の官僚社会の煩瑣な人間関係・交友関係にも、何の抵抗も感じなかったであろう。情熱家であり、少しばかりそそっかしく、また気の短い一面ももっていた。しかし他面において彼の思考過程を支配したものは、当時にあってはめずらしい合理主義であり、そして、出処進退には淡泊であるべきだというのが、彼の生涯を通じての処世哲学であった。」彼は道光帝によって罷免され、はるかかなたのイリ(伊犁)に配流となりますが、ここでも彼は結構楽しくやっていたようです。
本書を読んでいて、意外な知識の盲点に気づかされました。私は何の根拠もなく、没収した阿片の焼却は1日で行われたものと思い込んでいましたが、実際には23日間もかかったそうです。実は、本書の著者も、本書執筆の前には1日だと思い込んでいたようです。考えて見れば、2万箱もの阿片を1日で処理できるわけがありませんでした。私のこうした思い込みは、多分数えきれない程あるに違いありません。
もう一つ、阿片の没収は無償で行われたと思っていたのですが、実際には、1箱につき5斤の茶葉をイギリス商人に与えていたそうです。林則徐は、無償で没収することによって生じるかもしれない後日の紛争を考慮した分けですが、林則徐も含めて当時の中国の人々には分かっていないことがありました。隆盛しつつある資本主義的経済体制の中で、イギリスが問題としたのは阿片ではなく、自由な貿易だったということです。自由な貿易のために、イギリスはどんなことでもする覚悟を決めていたのです。もっとも、阿片の密貿易が自由な貿易とは思えませんが、そのことはイギリスも承知の上だったようです。
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