「Tsotsi(ツォツィ)」は、2005年にイギリスと南アフリカ共和国との合作で制作、翌年アカデミー賞を受賞した映画で、日本では、2007年に一般公開するに当たってR-15の指定を受けたため、物議をかもしました。
この映画は、南アフリカ共和国でツォツィ(チンピラ)という名で呼ばれた一人の青年が、犯罪を繰り返しつつ、やがて一人の赤ん坊に出会い、次第に目覚めて行くという物語で、この青年を通じて南アフリカ社会の苦悩と矛盾をえぐり出しています。そして、私はこの映画を見て少なからずショックを受けました。というのは、私自身が今日の南アフリカ社会の現実をまったく知らなかったからです。
南アフリカ共和国では、長い間徹底したアパルトヘイト(人種隔離)が行われていました。つまり一握りの「白人」が圧倒的多数の「有色人種」を支配し、「白人」は「有色人種」を隔離し差別してきました。このしたアパルトヘイトが行われた背景には、いつか「有色人種」に支配権を奪われるかもしれないという「白人」の強い恐怖感があったと思われます。南アフリカは国際世論の厳しい非難にも関わらず、ますますアパルトヘイトを強化しました。
しかし、1991年ついにアパルトヘイト政策は撤回され、1994年には黒人であるネルソン・マンデラが大統領に就任しました。私にとって、これにより南アフリカ問題・アパルトヘイト問題はハッピー・エンドとなり、以後私は南アフリカ問題に対する関心を失いました。しかし考えてみれば、アパルトヘイト政策の撤回と黒人政権の成立だけで、南アフリカ問題が解決するはずはなかったのです。
今日の南アフリカでは、相変わらず一握りの「白人」が経済的な実権を握り、黒人との経済格差はますます広がっているとのことです。さらに、アパルトヘイト時代に十分な教育を受けることができなかった人々が、犯罪に走って治安が悪化しているそうです。ツォツィはそのような青年の一人です。
一方、1994年マンデラが大統領となり、南アフリカ問題が「ハッピー・エンド」となった同じ年に、ウガンダで大量虐殺が行われ(100万人近くの人々が虐殺されたとも言われています)、ルワンダは内戦状態となりました。さらにこの内戦は隣のコンゴにも飛び火します。こうした中で、私の目はルワンダに引きつけられ、南アフリカ問題への関心を失ってしまったのです。
もちろん、私が世界中のあらゆる問題について常に正確に理解していることなど不可能だし、それができると思うほど私は傲慢ではありません。しかし、何も知らずに勝手に「ハッピー・エンド」にしてしまってはいけないし、むしろその方が傲慢だといえるでしょう。この映画を見て、私はそのことを思い知らされました。
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