2020年4月1日水曜日

映画「キングダム 見えざる敵」を観て


2007年にアメリカで制作されたサスペンス映画で、サウジアラビア王国の外国人居住地でのテロ事件を捜索するために派遣されたFBI捜査官たちの活動を描いています。この映画で興味深いのは、この事件が起きた背景の特殊性です。
サウジアラビアは、日本人にとって大変親しみのある国です。その親しみの原因の一つは「アラビアン・ナイト」を通じたロマンティックな連想かもしれないし、豊かな石油資源の国であることによるのかもしれません。1930年代にイブン・サウードが建国し、サウジアラビア王国と名付けられました。今日、王家の名が国名になっている国は滅多にありません。イブン・サウードは、建国に際して過激な原理主義の宗派ワッハーブ派と手を組み、彼らの影響力によって王家の求心力を強化しようとしました。一方、この頃アメリカの技師が油田を発見し、イブン・サウードはアメリカに油田の開発を認めます。その結果、サウジアラビア王国は大きな矛盾を抱え込むことになります。
第二次世界大戦後、油田の開発が進むと、莫大な利益が生まれ、それは王家の強化とサウジアラビア王国の国際的な地位の向上もたらしました。しかし、その結果多くの外国人や外国文化が流入しますが、ワッハーブ派はそのことに危機感を感じ、彼らの教義の遵守を強要し、外国人に対するテロ活動も行いました。特に過激派は、イスラーム教徒の土地を外国人に穢されていると考えているようです。そのため政府は、外国人に観光ビザを発給しておらず(最近発給されるようになったとも聞きましたが)、ビジネスや公務でサウジアラビア王国に滞在する人は、主要な都市に設置された外国人居住区域に住むことを求められています。
そして、この外国人居住地でテロ事件が発生し、事件の捜査のためFBI捜査官が派遣された訳ですが、当然のことながら、彼らは徹底的な隠密行動を強いられます。意外に思うかも知れませんが、中東におけるアメリカの最大の同盟国サウジアラビア王国には、少なくとも表向きにはアメリカの正規軍は配備されていません。ましてやFBIが勝手に捜査活動を行っていることが知られたら、一大事です。その意味で、この映画はスリリングでした。結局、任務を達成した捜査員たちは、密かにサウジアラビア王国を去っていきます。
ところで、欧米諸国は後発国で自由と民主主義が抑圧されると、常に強く抗議し、制裁を課します。しかし世界のどこよりも自由と民主主義が抑圧されたサウジアラビア王国に対しては、欧米諸国は批判も制裁もせず、それどころか大量の兵器を売っています。その理由はただ一つです。石油のためなら、自由も民主主義もどうでもよいということです。もちろんこうしたことは国際政治の現実ですが、それにしても欧米の外交のダブルスタンダードには呆れるばかりです。これでは、欧米がどんなに自由と民主主義を声高に叫ぼうとも、説得力に欠けています。

0 件のコメント:

コメントを投稿