2019年4月10日水曜日

「おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想」を読んで

ロジーナ・ハリソン著、1975年、新井潤美監修、新井雅代訳、白水社、2014
 19世紀のヨーロッパ、特にイギリスでは中流階級が急成長しました。そして中流階級は、一人以上の使用人を雇うものとされていました。さらに大金持ちや貴族は、ロンドンの邸宅と領地の邸宅で多くの使用人を使っており、したがって使用人の総数は相当の数にのぼっていたと思われます。CSBSで放映されている「ダウントン・アビー」は、私は観ていませんが、20世紀前半のイギリスの貴族の邸宅での使用人の生活を描いたもののようで、それはちょうど、この本の著者ロジーナがメイドを始めたころのことです。
 使用人は使用人としてのさまざまな能力を高め、なかでも執事や夫人つきのメイドは名誉ある職でした。ロジーナは、1928年にアスター子爵家のメイドとなり、まもなく子爵夫人お付のメイドとなります。しかしこの夫人は気難しく気まぐれで、メイドを気遣う気持ちはまるでなく、サディスティックで辛辣でした。そのため彼女は消耗し、病気で倒れるか辞職するしかない状況に追い込まれていきました。しかし、彼女が言うところによれば、ある日彼女はトランス状態に陥り、夢を見ているような状態の中で、奥様との問題など些細なことのように思われたそうです。

 それ以来、彼女は奥様の気まぐれには毅然として反論し、間違っていることは受け入れなくなくなりました。これに対して奥様はますます口汚く彼女を罵りますが、しだいにこの関係が日常的な関係として定着していくようになり、結局ロジーナは子爵夫人の信頼と尊敬を勝ち取り、35年間子爵夫人に仕えることになります。子爵夫人は交際範囲の広い人でしたので、ロジーナも多くの高名な人と知己を得、さらに夫人について世界中を旅行し、彼女は豊かな人生を送ることができました。その意味において、彼女の生き方は「メイド道」を全うしたと言えるかもしれません。

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