2019年4月3日水曜日

「歴史物語ミャンマー」を読んで














山口洋一著、2011年、カナリア書房
著者は外交官の出身で、駐ミャンマー特命大使などを歴任しており、その縁で本書が著されたのだと思います。本書は、いわばミャンマーの王朝史で、紀元前2世紀以来のチベット・ビルマ族の南下に始まり、11世紀に成立したパガン朝以来のミャンマーの王朝史をかなり具体的に書いています。上下巻あわせて600ページを超える大著で、東南アジア史に関して、これほど体系的に王朝史を扱った本を、私は他に知りません。ただ、前に観た「タイ映画「ザ・キング」を観て」で王朝史の片鱗を観た程度ですが、この映画も私にとっては非常に新鮮な映画でした。なお、本書ではできれば社会・経済的な側面や民衆の生活を、もう少し多く語ってもらいたかったと思います。
本書の目的は、サブタイトルにもあるように、ミャンマーは「独立自尊の意気盛んな自由で平等の国」現在の惨めなミャンマーの姿は、真の姿ではなく、ミャンマーは東南アジアでは特異な国家だと主張することです。ただ、隣国タイでも、「タイ」とは「自由人」を意味するという俗説があるくらいで、一定の文明を築いた国ならどこの国でも、自由や平等が根幹にあるのではないでしょうか。オリエント的な専制とヨーロッパ的な自由と民主主義というステレオタイプの俗説がありますが、本書はこの俗説を前提として、ミャンマーは他とは異なると主張しているように思います。
そもそも、オリエント的専制の代表格ともされるアケメネス朝ペルシアでさえ、建国当初君主制にすべきか民主制にすべきかという議論がなされたとのことです。アケメネス朝ペルシアと古代アテネとの間に本質的な違いがあったのでしょうか。さらに、紀元前5世紀の中国の聚落と、同じ時期のアテネとの間に本質的な違いがあったのでしょうか。アテネのほうがより民主的だったといえるのでしょうか。
話がそれてしまいましたが、要するに、自由と平等の概念はヨーロッパの専売特許ではなく、ミャンマーにもあったということが再確認できました。

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