2018年1月31日水曜日

「小さな長征」を読んで

法村香音子著、1989年、社会思想社













 著者は旧満州で生まれ、10歳の時終戦を迎えましたが、医師だった父が共産軍(八路軍)の医師として徴用されたため、父が共産軍の移動とともに移動し、彼の家族、著者と母と妹も一緒に移動することを強いられました。移動したのは中国と朝鮮の国境地帯ですが、八路軍は敵との全面衝突を避け、狭い地域を絶え間なく移動して敵の弱点をつくため、著者たちも軍隊ととともに絶え間なく移動していました。それはまさに「小さな長征」といえるかもしれません。
 こうしたことは、当時としてはそれ程珍しいことではなく、自ら八路軍に志願する人や、著者の家族のように無理やり徴用される人も沢山いました。また終戦後の混乱の中で、多くの悲劇も生まれました。この点については、このブログの「「満州国皇帝の通化落ち」を
読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2017/08/blog-post.html)を参照して下さい。
 筆者は、当時まだ幼かったので、当時何が起きていたのか、よく分かっていませんでした。それでも様々な場所で生活し、移動し、様々な出会いがありました。「二十歳そこそこの若い夫婦は長春の農村に住んでいたのだが、貧農によくあるように、食うために夫は国民党の軍隊に入った。そして、間もなくこの内戦である。夫は国民党の軍隊とともにどこかへ行ってしまった。残された妻は、やはり食べるために、替わって入ってきた八路軍に加わった。そして移動。」

 当時、多くの人がこうした経験をしました。なかには決して思い出したくない経験もあるでしょうが、こうした経験を少しでも多く書き残すことは、今を生きる我々にとって大きな遺産となることでしょう。

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