舒乙(シュウ イー)著 1986年 中島晋訳 作品社(1988年)
魯迅とともに中国近代文学の開拓者の一人とされる老舎の伝記で、本書の著者は老舎の子息です。老舎は、1899年に北京の胡同に住む下級軍人の末っ子として生まれ、翌年父が義和団事件で戦死したため、5人の子供多たちを育てました。赤貧洗うがごとき生活でしたが、慈善家の好意で教育を受け、19歳で小学校の校長となりました。この頃魯迅は北京に滞在しており、軍閥政府の下で官僚として古典の研究や教育改革に没頭していましたので、二人はどこかで合ったことがあるかもしれません。
1936年に「駱駝祥子(らくだのしゃんづ)」を発表し、以後作家活動に専念します。翌1937年に盧溝橋事件が起きて日中戦争が本格化すると、抗日的な小説を多く書くようになり、中華人民共和国の成立後も彼は政府からも人々からも尊敬されましたが、文化大革命が起きると紅衛兵によって暴行され、1966年に自殺します。文化大革命は、文化人にとっては辛い時代でした。1978年に名誉が回復され、1986年に彼の子息によって伝記が執筆された分けです。
本書は、父に対する筆者の哀愁に溢れています。生まれ故郷である北京への愛情、抗日戦争時代の放浪生活、そして文化大革命による絶望などです。ただ、内容的には著者の個人的な思い入れが強く、そのまま受け入れてよいのかどうか分かりませんが、老舎についての客観的な研究はまだ少ないようですので、本書は老舎について知るための貴重な資料ではないかと思います。なお、老舎の代表作「駱駝祥子」については、私はずいぶん前に読みました。内容についてはあまり覚えていませんが、どんなに努力しても没落していく一庶民の生活を描いており、当時の中国の闇の深さを感じました。
0 件のコメント:
コメントを投稿