2011年にハンガリーで製作された映画で、ニーチェとは、19世紀後半に活躍したドイツの哲学者です。ニーチェは、ルター派の裕福な牧師の家に生まれますが、彼は神学ではなく、古典文献学を学び、次いで哲学を学びます。1869年に24歳の時、スイスのバーゼル大学に招かれ、その際プロイセン国籍を捨てたため、生涯無国籍者として生きます。その後、健康上の理由もあって大学を辞し、フリーの哲学者として生きていきます。
私には、ニーチェの思想を語る能力はありません。はるか昔に彼の主著「ツァラトゥストラはかく語りき」を読みましたが、ほとんど理解できませんでした。ただ、彼はヨーロッパの伝統的な価値観を覆し、ヨーロッパの思想に新しい局面を開いたとされます。また、彼はアフォリズム(格言)風の言葉で自らの思想を表現しようとしまた。「神は死んだ」「超人」「永劫回帰」などです。そして1889年にイタリアのトリノの広場で、真偽は不明ですが、鞭うたれている馬に駆け寄って泣き始め、そのまま発狂したそうです。その後ニーチェは静かに余生を過ごし、1900年に死亡します。55歳でした。まさに世紀末にふさわしい思想家だったといえるでしょう。
この映画のテーマは、その後この馬はどうなったか、ということらしく、原題は「トリノの馬」です。映画は、一人の農夫とその娘と一頭の馬の、六日間の物語です。二人は荒れ果てた土地の小さな小屋に住み、何日も強い風が吹き続け、外で仕事をすることもできません。食べ物は茹でたジャガイモだけです。朝、井戸から水を汲み、ジャガイモを茹で、二人で黙々と食べ、馬に水と餌をやり、そして寝るだけです。会話はほとんどありません。そして少しずつ終末に向かっていいきます。三日目になぜか馬が餌を食べなくなり、四日目に井戸の水が涸れてしまい、ジャガイモを生で食べようとしますが、とても食べられません。
五日目に、二人は身の回りの物を持ち、馬を連れて家を出、丘の上まで行きますが、なぜか戻ってきます。丘の向こうには何があったのでしょうか。こちら側より荒れ果てた土地か、それとも「無」か。いずれにしても、今や親子と馬は滅びていくのみです。その日の夜からランプに火がつかなくなり、六日目にはなすこともなく、沈黙と闇が支配します。聖書では、神は六日で天地を創造し、七日目に休息したということになっていますが、この映画では六日で親子と馬は滅び、七日目はありません。
この映画を観ていて、途中何度が観るのを止めようかと思いましたが、それでも何となく眼が離せなくて、結局最後まで見てしまいました。狭い空間が宇宙のように思われ、六日間が永遠のように思われました。そして七日目が過ぎたら、また同じ様に第一日目が始まるのかもしれません。
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