C.C.&G.ラガッシュ著、1981年、高橋正男訳、八坂書房、1989年
本書の邦題である「狼と西洋文明」というは幾分大袈裟で、原題は「フランスの狼」です。
人間と狼との関係の歴史は非常に古く、先史時代には、人間と狼は共通の獲物を狙うライバルではありましたが、狼が人間を襲うことはほとんどなかったようです。しかし牧羊文明が始まり、人間による開拓が進んで狼の猟場が減少すると、狼は盛んに羊を襲うようになり、しばしば羊飼いの少年が狼の犠牲になることがありました。このことは、イソップ物語での「羊飼いの少年」で有名です。こうして人間と狼とのし烈な戦いが行われる分けです。日本にも狼がいますが、日本では人の入らない山岳地帯が多く、そこには十分なエサがあり、また日本では牧畜があまり行われませんでしたので、人間と狼との戦いはあまり問題にならなかったようです。
また、人間同士の戦争で多くの死体が戦場にうち捨てられると、これが狼のエサとなり、狼は人肉の味を覚え、ここに人食い狼が登場することになります。人が狼に喰われるという話は「赤ずきんちゃん」でも有名です。さらに狂犬病に感染した狼に噛みつかれると、ほとんどの人は助かりません。しかし、19世紀末にパスツールが狂犬病のワクチンを開発して、狂犬病の脅威が減少するとともに、この頃には狼そのものが減少し続けていました。それは、政府が賞金を出して狼を殺したり、さらに人間による開発のため狼の生息域が減少してきたからで、今日のヨーロッパでは野生の狼はほぼ絶滅したようで、むしろ狼の種の保存が問題となっているほどです。
本書では、フランスを中心に人間と狼との長い戦いの歴史が述べられるとともに、その過程で生まれたさまざまな伝説・神話・寓話などが具体的に述べられ、大変興味深い内容でしたが、それが西洋文明に大きな影響を与えるというようなものでは、ありませんでした。
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