三杉隆敏著 1990年 新潮選書
本書の著者は海中考古学者で、専門は海のシルクロードにおける海中考古学を専攻しており、世界各地の海中探査に精通しています。地上の遺跡は何千年もの間に盗掘が繰り返され、また盗品の売人は発見場所を秘密にしますので、今日では考古学的遺物を発見することは容易ではありません。ところが海中に沈没した船については、素潜りでは容易に遺品を持ち出すことができませんので、多くの沈没船が多くの荷物を積載したまま、沈没しているわけです。そうした沈没船が発見されるケースとしては、たまたま海岸近くで沈没し、遺物が海岸に流れついた場合、また圧倒的に多いケースは、猟師の漁網に引っかかったりした場合ですが、この場合猟師にとって沈没船は漁業の邪魔者以外の何ものでもありませんから、報告されることは滅多にありません。
しかし歴史資料には、船舶の遭難についての記事が多数残されており、こうした記事を頼りに多くの人々が、沈没船からの宝探し行ってきました。それは文字通り宝探しであり、考古学的研究ではありませんでしたが、こうした海中の宝探しを通じて、沈没船の探索の考古学的な意味が認識されるようになり、海中考古学なる分野が誕生してきます。特に第二次世界大戦後、潜水技術やサルベージ技術が大幅に向上すると、海中考古学の重要性が一気に注目されるようになります。
特に注目される海域は、ギリシア・ローマ文化を背景とした地中海海域、新大陸の財宝を運ぶ途中で沈没船の多いカリブ海からメキシコ湾岸域、そして近年はマレー半島周辺やマラッカ海峡の海域、そして朝鮮半島南西部の多島海域などだそうです。本書は、こうした地域での沈没船の探索の歴史と事例を、具体的に述べており、大変興味深い内容でした。
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