2017年4月29日土曜日

映画「エリザベート 愛と悲しみの皇妃」を観て


2009年にドイツ、イタリア、オーストリアの合作で、テレビ用に制作された映画で、19世紀後半のオーストリア帝国の皇后エリザベートの半生を描いています。
 ナポレオン戦争後のオーストリア-ハプスブルク帝国は、もはや神聖ローマ帝国を名乗らなくなったとはいえ、北イタリアやハンガリー、チェコなどを支配する帝国であり、多くの民族によって構成される複合民族国家であると同時に、専制君主国でもありました。そのため、独立を求める民族運動や、自由を求める市民運動が頻発していました。そうした中で、1848年にウィーンで三月革命が起き、皇帝が退位し、まだ18歳のフランツ・ヨーゼフ2世が皇帝に即位します。そして、彼の68年におよぶ治世の間に、サルデーニャ王国との戦いに敗れて北イタリアを失い、プロイセン王国との戦いに敗れてドイツでの主導権を失い、第一次世界大戦に突入してオーストリア帝国は滅亡していきます。この間に弟のマクシミリアンがメキシコ皇帝となって処刑され、皇太子が自殺し、皇后が暗殺され、さらに皇太子がサライェヴォで暗殺されます。
 エリザベートは、バイエルン王家のヴィッテルスバッハ家に生まれ、愛称がシシィで、この映画のタイトルも「シシィ」です。バイエルンについては、この当時のバイエルン王を扱った「映画「ルートヴィヒ」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html)を参照して下さい。この映画ではエリザベートが何度も登場しますが、映画「シシィ」では、ルートヴィヒはほとんど登場しません。1853年にシシィは姉がフランツとお見合いした時に付き添ったのですが、フランツが姉よりも妹のシシィを気に入り、反対を押し切って、翌年結婚します。シシィはまだ16歳でした。
 彼女は、ヨーロッパ第一の美女と称えられ、身長172cm、ウエスト50センチ、体重50キロという驚異的な体形の持ち主でした。映画では、彼女は自由主義思想に共鳴し、皇帝にも改革を求めますが、これはかなり美化して描かれているように思われます。ウイキペディアは彼女について、次のように述べています。「皇后でありながら君主制を否定した「進歩的な女性」と評されることもあるエリーザベトだが、一方で尊大、傲慢、狭量かつ権威主義的であるのみならず、皇后・妻・母としての役目は全て放棄かつ拒否しながら、その特権のみほしいままに享受し続け、皇后としての莫大な資産によってヨーロッパ・北アフリカ各地を旅行したり法外な額の買い物をしたりするなど、自己中心的で傍若無人な振る舞いが非常に多かったとされる。」
 もしかすると、この映画の主題はシシィではなく、ハンガリー問題なのかもしれません。ハンガリーは、17世紀以来オーストリアよって支配されており、これに対する不満からしばしば独立運動が起きていました。そしてシシィは、教育係のハンガリー人に影響されてハンガリーを愛し、勉強嫌いな彼女が短期間でハンガリー語を習得します。映画では、しばしばハンガリー貴族であるアンドラーシ伯爵が、シシィとハンガリー独立について話し合います。そしてオーストラリアがプロイセンとの戦いに敗北すると、もはやオーストリア帝国を維持することは困難となり、1867年にオーストリアとハンガリーを対等として自治を認め、フランツが両国の君主となり、ここにオーストリア・ハンガリー二重帝国が成立することになります。 
 映画はここで終わりますが、この二重帝国の成立はオーストリアを東方帝国へと変えて行きます。オーストリアはハンガリーを先兵としてバルカン半島に進出し、1878年のベルリン会議でボスニア・ヘルツェゴヴィナを獲得します。このベルリン会議でのオーストリア全権代表はアンドラーシでした。オーストリアは、西方で失った勢力を東方・バルカンへの進出で補ったわけです。そして、結果的には、このボスニア・ヘルツェゴヴィナへの進出が第一次世界大戦の原因となり、オーストリア・ハプスブルク帝国の滅亡につながっていくわけです。
 映画は、オーストリアハンガリー二重帝国の成立をもって終わりますが、シシィとフランツの物語は、まだ続きます。1889年には皇太子が、女性問題で自殺し、1898年にはシシィが、スイス旅行中に無政府主義者によって暗殺されます。皇太子の自殺については暗殺説もあり、謎に包まれています。またシシィを暗殺した犯人は、王侯を暗殺することだけを目的としており、たまたまそこにシシィがいたという理由だけで犯行に及びました。一方、フランツはなお生き続け、第一次世界大戦のさ中の1916年に86歳で死亡します。

 映画では、イタリア統一戦争やプロイセン・オーストリア戦争、さらにハンガリー問題が具体的に描かれており、それなりに興味深い場面がありましたが、全体としては、あまり出来の良い映画とは思えませんでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿