2017年2月4日土曜日

映画「十二夜」を観て

シェイクスピア原作の喜劇「十二夜」(副題「御意のままに」)を、1996年にイギリスで映画化されたもので、男女が入れ替わり三つ巴の恋が展開するという物語です。この戯曲も、何度も映画化・舞台化・テレビドラマ化が行われており、さまざまなバージョンがあり、アメリカでは現代のハイスクールに舞台を置き換えた映画も制作されているそうです。なお、この映画は、時代を19世紀においています。シェイクスピアについては、このブログの「映画でシェイクスピアを観て」を参照して下さい(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/10/blog-post_17.html)

 まず十二夜とは、イエスの誕生を予言した東方の三人の博士がイエスに合うためベツレヘムを訪れ、イエス誕生から12日目にイエスに出会ったという故事に基づき、この日をお祝いするというもので、お祭り騒ぎをするそうです。この日は16日で、エリザベス女王が、シェイクスピアにこの日に芝居を上演するようにと命じたことから、この戯曲は「十二夜」と名付けられました。したがって、「十二夜」という戯曲の内容は、十二夜とは直接関係がありません。このエピソードは、前に観た「恋におちたシェイクスピア」でも扱われています。

 舞台となったイリリアは、空想の国です。イリリアとは、イタリアの西のアドリア海の対岸にあり、前1000年頃からイリリア人と呼ばれる人々が住んでいましたが、彼らについすてはほとんど分かっていません。彼らの言語はインド・ヨーロッパ系に属するようで、その言語の一部が、現在のアルバニア語に残っているそうです。イリリアは紀元前5世紀頃から勢力を拡大しますが、紀元前2世紀にローマによって征服され、やがてイリリア語も消滅しますが、イリリアは空想の国として人々の記憶に残り、「十二夜」では「恋の国」として描かれます。
 映画は、双子の兄妹が乗っていた船が難破するところから始まります。私は性の異なる双生児に出会ったことは在りませんが、二卵性双生児のうち約4割が男女の双子だそうですので、それ程珍しいことではないようです。この双生児の兄はセバスチャンで、妹はヴァイオラで、二人は顔がそっくりです。ヴァイオラはイリリアの浜辺に漂着しますが、兄と生き別れになってしまいます。こまったヴァイオラは、男装して名前もセザリオと替え、この地を支配しているオーシーノ公爵の小姓となります。
 オーシーノ公爵は伯爵令嬢オリヴィアに恋をしていたため、ヴァイオラ(セザリオ)に恋の取持ちを頼みますが、オリヴィアがヴァイオラに恋をしてしまい、またヴァンオラがオーシーノ公爵に恋をしてしまいます。つまり、妙な三角関係が生まれる分けです。結局、ヴァンオラに瓜二つの兄のセバスチャンが現れてセバスチャンとオリヴィアが結ばれ、ヴァイオラが女であることが明らかとなって、オーシーノ公爵とヴァイオラが結ばれるという話です。
 この物語は、ジェンダーの問題と深く関わりがあります。ジェンダーについては、古くからさまざまな解釈がありますが、今日一般的には、「社会的・文化的に形成された性別」を指します。つまり「ある社会において、生物学的男性ないし女性にとってふさわしいと考えられている役割・思考・行動・表象全般を指し」ます。したがって、今日においては、「女らしさ」の基準が社会に適合していないことから、ジェンダーを性差別と同様に捉えることもあります。この物語でも、男性に変装した女性が女性から恋をされ、女装した女性が男性に恋をする分けですから、「社会・文化的に形成された性」と「生物学的な性」との関係が問題となっている分けです。
 日本の平安時代に「とりかへばや物語」という物語が生まれました。内気で女性的な性格の男児と快活で男性的な性格の女児がおり、父親は取り替えたいと思い、女児を「若君」、男児を姫君として育てます。やがて若君は高貴な女性と結婚しますが、当然妻は他の男性と浮気し、結婚は破綻します。姫君は上司に女性であることを見破られ、二人は恋をし、やがて姫君は出産します。その後、姫君と若君は密かに入れ替わり、本来の状態に戻った、という話です。生物学的な性と社会的な性との葛藤を描いた大変珍しい話で、「十二夜」と共通するものがあるように思います。
 映画と直接関係のない話ばかりを書いてしまいましたが、映画はとても面白く観ることができました。ただ、私は原作を読んでいないので分かりませんが、映画は原作より喜劇の部分が削除されているようです。それと関係するかどうか分かりませんが、伯爵家の執事マルヴォーリオが徹底的に苛められる理由が、よく分かりませんでした。このエピソードは、まるで「ヴェニスの商人」のシャイロットの物語のようでした。この二組の幸福な男女の、暗い結末を予想させるようでもありました。

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