2017年1月21日土曜日

映画「ロビン・フッド」を観て

2010年のアメリカ・イギリス合作映画です。ロビン・フッドについては、過去に何度も映画化されており、日本でも大変よく知られていますが、一応ロビン・フッドの物語の概略を述べておきます。時代は13世紀初めのジョン王の時代、場所はイングランド中央部のノッティンガム、その近郊のシャーウッドの森に、ロビン・フッドという盗賊(義賊・アウトロー)が、ジョン王の暴政に反発して、民衆を苦しめる代官を懲らしめる、という話です。世界中どこでも、民衆は悪を懲らしめる義賊には、拍手喝さいを送るようです。
ただ、ロビン・フッドについては、後に吟遊詩人に語られているのみであり、その実在を証明する証拠は何も見つかっていないそうです。したがって、ロビン・フッドの物語は、アーサー王伝説程ではないにしても、色々バージョンがあり、ロビン・フッドは農民だったとか、実は貴族だったとか、恋人のマリアンは羊飼いだったとか、実は貴族の娘だったとか、です。なお、上で述べたロビン・フッド物語の概略は、19世紀に生まれたもののようです。
 次に、ロビン・フッドが登場する時代背景に触れておきたいと思います。12世紀半ばに、フランスの大貴族アンジュー家のヘンリ(アンリ)が、イングランド国王となり、プランタジネット朝が成立します。このこと自体は、当時としては特に珍しいことではなく、封建制度の下にあっては、一人の人物があちこちの封建領主であり、さらにイングランドの王冠も手に入れたということであり、極論すれば、後継者なしに国王が死ねばたちまちばらばらになってしまいます。第一、プランタジネット朝の前の王朝であるノルマン朝は、北フランスのノルマンディーを領有する貴族でした。したがってイングランドの国王は、11世紀から14世紀までフランスの貴族が務めていたことになります。このことは、イングランド国王が形式上フランス国王の封建家臣となるという、ややこしい問題を引き起こし、また国王はフランスに滞在することが多く、宮廷でフランス貴族が幅をきかせて在来貴族が不満をもつ、といった問題はありますが、フランスの高い文明がイギリスに伝えられ、イギリス文化の形成に大きな役割を果たすことにもなります。
 さて、ヘンリ2世は、不在がちではありましたが、よくイングランドを統治し、その後のイングランドの政治制度の原型を形成したとされます。しかし、彼は家族には恵まれませんでした。彼には4人の息子がいましたが、ことごとく父に反抗し、妻までも息子の側について反抗し、1189年に失意のうちに死亡します。後を継いだリチャード1世は、在位10年の間でイギリスにいたのは6カ月だけで、後は十字軍遠征など戦いの連続でした。彼はイギリスで金をかき集め、1190年に十字軍遠征に出発します。彼は獅子心王と呼ばれる程勇猛で、聖地でも活躍しますが、一方で3000人近いイスラーム教徒を虐殺するという残虐行為を行っています。結局彼はイェルサレム陥落には失敗し、1292年に帰途につきます。しかし、オーストリアを通過中に、かつて彼が侮辱したオーストリア公に捕虜にされ、巨額の身代金を払って一時帰国しますが、すぐにフランスに渡ってフランス王と戦い、1199年に戦死します。
 こんなリチャード1世でしたが、彼はイングランドでは名君として賞賛されました。それは多分、彼がほとんどイングランドにおらず、何もしなかったからであり、さらに弟のジョンとの比較で名君とされたのだろうと思います。ジョンは、兄が留守だったため、事実上君主としてイングランドを統治しており、すでにその頃からジョンの悪政は評判が悪く、人々の間ではリチャードが帰国すればすべてよくなるという待望がありました。しかし、リチャードは一旦帰国しますが、フランス王との戦争のためすぐにフランスに渡り、今度は二度と帰国しませんでした。そして、このジョンの悪政の時代に、ロビン・フッドが登場するわけです。
 ジョンが本当に暴君だったかどうかは、私には分かりませんが、一般に言われる悪評については、多少割り引いて考える必要があるように思います。まず重税については、兄の十字軍遠征の費用と身代金の支払いの必要によるもので、責任はリチャードの側にあります。また彼はローマ教皇に破門されますが、これは父ヘンリ2世から受け継いだ係争であり、大陸領土のほとんどを失いますが、これも兄リチャードから受け継いだものです。結局彼の悪政は貴族の反発を招き、イギリス憲政師史上、画期的とされるマグナ・カルタを承認することになり、大陸領土をほとんど失ったことは、イングランドが一つのまとまりのある国となる道を開きました。ただし、それはジョンが望んだことではなかったかもしれませんが。
 映画では、ロビン・フッドはリチャードの十字軍に従軍していましたが、リチャードが死ぬと軍隊を脱走してイングランドに帰り、やがて彼が義賊になっていく過程が語られます。話が複雑なので、要点だけを述べます。まず彼の父は、イギリス憲政の出発点となるマグナカルタを書いた人物で、彼もその実現に努力します。次に、フランス国王軍が攻めてくるという情報を得て、ジョンとともに戦いますが、結局彼はジョンに裏切られて義賊となります。また、今回のマリアンはノッティンガムの領主の義理の娘という設定になっています。
 全体にこじ付けが多く、特にマグナ・カルタとの関係には無理があるように思われますが、単なる英雄伝説として観れば、それなりに楽しく観ることのできる映画でした。


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