2003年のイギリス/スペイン合作で、中世イングランドを舞台にしたミステリ映画です。時代は14世紀の終わり頃ですから、人々はペストの流行と百年戦争で疲弊し、教会が腐敗して信仰心も失われていった時代です。なお、この映画の原題は「報い」です。
舞台となった場所は特定できませんが、イングランド内陸部の小さな町です。ヨーロッパでは、11世紀頃から各地に都市が生まれ始めますが、その多くは人口500人程度の町で、一般的には領主の城壁の周囲に家を建てて町になったというケースが多いようです。映画に登場する町もこうした町で、狭い場所に小さな家が建てられ、小さな広場では見世物や処刑も行われていました。
映画では、修道僧ニコラスが、己の欲望に勝てずに人妻との姦通罪を犯し、逃亡しているところから始まります。そして旅芸人の一座に潜りこんで、小さな町にやってきます。旅芸人とは、日本でもそうですが、最下層のアウトローの世界に生きる人々です。しかし、娯楽の少ない時代にあっては、結構人々に喜ばれていました。彼らが町に着いた時、町では一人の女性が少年を殺害した罪で裁かれており、彼女に絞首刑が宣告されました。
彼女は聾唖者で、町の外れに住み、薬草などで病気を治す治療師だったり、霊媒師のような役割を果たしたりしていました。当時よく、町や村の外れにこうした女性(老婆が多い)が住んでおり、人々の役に立っていたのですが、こうした女性は共同体に属しておらず、人々からは奇異の目で見られていました。したがって、少年殺害のような異常な事件が発生すると、こうした女性が疑われることがしばしばあり、後には魔女として迫害されるようになります。そしてここから事件が始まります。
ところで。当時の旅芸人は宗教劇を演じることが多かったのですが、人々の信仰が揺らいできたこともあって、宗教劇はあまり人気がありませんでした。そこで座長は、少年の殺害事件をテーマにした創作劇をやろうと言い出しました。そのために事件を調べていくうちに、彼女が無実ではないかと考えるようになります。やがて、領主が男色で、その欲望ために少年を殺したこと、実は過去に何人もの少年が殺されていること、さらに教会がその事実を知りつつ隠蔽していたこと、そして実はダニエルも人を殺していたこと、が判明します。そして、領主が犯した少年がペストに感染していたことが判明し、したがって領主もペストに感染している可能性があります。怒った領主はダニエルを殺しますが、最後に領主に対して反乱を起こした民衆が城に火をつけ、領主は自らの罪の「報い」を受けることになります。
映画では、しばしば、前に観た「薔薇の名前」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/09/blog-post_19.html)で見られたような宗教論争が行われますが、その論争を通じて信仰心がかなり希薄になっている様を観ることができます。映画の内容はそれ程深いものではありませんが、中世末期の小さな町の風景を観ることができました。