2016年10月1日土曜日

映画「四月の涙」を観て

2008年に制作されたフィンランド・ドイツ・ギリシアによる合作映画で、1918年に始まったフィンランド内戦の一コマを扱っており、日本では大変珍しい内容の映画です。
フィンランドは、スカンディナヴィア半島とロシアの間に位置し、無数の湖が存在し、寒冷で過酷な自然環境のもとにおかれています。フィンランドの主要な民族であるフィン人は、形態的には周囲の北欧人とほとんど同じですが、言語は周囲のインド・ヨーロッパ語族とはまったく異なり、そのルーツは北東アジアにあるそうです。つまりフィン人は、スペインのバスク人と同様、インド・ヨーロッパ語族の中での孤島を形成しています。バスク人については、このブログの「「バスク大統領亡命記」を読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/search?q=%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%AF)を参照して下さい。
 フィンランドは、13世紀以降ほぼスウェーデンの支配下におかれ、さらに19世紀初頭以降はロシアの支配下におかれ、フィン人自身が国家を形成することは在りませんでした。しかし19世紀にフィン人の民族意識が形成され、ロシアによる圧政もあって独立運動が高まり、1917年にロシア革命が起きると、その混乱に乗じてフィンランドは独立を宣言しました。しかし、社会主義化を目指す労働者たちは赤衛軍を組織し、有産階級は白衛軍を組織して対立したため、内戦に突入します。当初赤衛軍が優位に立ちましたが、ドイツが白衛軍を支援したため、たちまち赤衛軍は敗北します。
 映画は、1918年の四月、すでに赤衛軍の敗北は確実となり、残党狩りが行われているところから始まります。当時、2000人の赤衛軍の女性部隊が、まだ戦っていました。なぜ女性部隊が存在したのか知りませんが、もともとフィンランドは、過酷な自然の中で生きていくために、女性も男性と同じように働いてきたことから、男女平等の意識が強いそうです。今日のフィンランドでは、男性に限り徴兵制がありますが、女性も志願兵として兵士となることができるようです。
 女性兵士ミーナは、同僚から自分が死んだら子供のことを頼むと言われていました。やがて同僚は死に、ミーナは捕虜となり、強姦され、裁判所まで送られることになります。アーロという兵士が彼女をボートに乗せて裁判所に向かいますが、途中で遭難して1週間孤島で暮らします。アーロは誠実な男性で、やがて二人は互いに意識しあうようになります。この長い旅の過程で、飢えに苦しむ人々、戦争の悲惨さ、そして厳しくかつ美しいフィンランドの風景が描き出されます。結局裁判所でミーナは死刑を宣告されますが、アーロはミーナを逃がし、彼自身は射殺されます。やがてミーナは同僚の息子を引き取り、二人で穏やかな生活をすることになります。この間に、強姦、殺戮、不倫、ホモセクシャルなどが関係して、話はかなり複雑ですが、戦争による混乱を経て、やがてフィンランドは平和な国家を形成していく、という話ではないかと思います。
 その後、ドイツが第一次世界大戦で敗北したため、フィンランドで総選挙が行われ、共和派が圧勝して、パリ講和会議で独立が承認されます。第二次世界大戦中にソ連軍がフィンランドに侵入したため、やむなくフィンランドはナチス・ドイツに接近し、結局フィンランドは敗戦国の汚名を着ることになり、冷戦が終結するまで外交的に厳しい状態に置かれますが、今日では西欧とロシアとの懸け橋として、重要な役割を果たしています。


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