1926年にドイツで制作された映画で、無声映画ですが、意外にも面白く観ることができました。ファウストを題材とした映画は数多くありますが、たまたま私が観たのが、この映画だったというだけです。「ファウスト」というとゲーテの作品を思い浮かべますが、「ファウスト」には多数のヴァージョンがあり、この映画の原作がゲーテという分けではありません。
ファウストは、16世紀前半のドイツの錬金術師・占星術師がモデルとなったと推測されています。彼は各地を旅し、最後は錬金術の実験中に爆死したとのことです。そして16世紀後半に、「実伝ファウスト博士」という民衆本が書かれ、それを基に演劇や人形劇で盛かんに演じられて、民衆に広く愛される伝承となっていきました。それによれば、ファウストは、学問を究めますがそれに限界を感じ、悪魔メフィストフェレスと契約を交わして、死後自分の魂を悪魔に与える代わりに、現世でのあらゆる欲望を追求することになり、地獄へ落ちていきます。
映画では、ファウストはグレートヘンという純真で美しい女性に恋をし、メフィストフェレスに頼んで彼女を手に入れます。しかし二人の恋に反対した彼女の母と兄は、ファウストとメティストフェレスに殺され、ファウストの子を産んだグレートヘンとは一人で子供を育てられず、結局子供を死に至らせてしまいます。その結果彼女は子殺しの罪で火炙りの刑と定められ、まさに彼女の人生は無茶苦茶になってしまいます。それを知ったファウストは、彼女のもとに駆けつけ、彼女とともに火の中に入って死に、ともに天国へ行くことになります。罪を犯した二人が天国に行けた理由は「愛」であるという、いささか陳腐な結論となりますが、何しろ今から100年近く前に制作された映画ですので、仕方がないと思います。この映画は、コミカルなタッチで描かれるとともに、革新的なトリックが随所で使用されているようで、後の映画技術に大きな影響を与えたそうです。
ゲーテの「ファウスト」の結末は、少し違います。ここまでの話は、ゲーテの「ファウスト」の第一部で、ファウストは天国でのグレートヘントの取り成しと、彼自身が積み重ねてきた努力の故に罪が許され、第二部に入ります。ゲーテは、若い頃から「ファウスト」についての構想を育み、1808年59歳の時に第一部を発表し、1832年に83歳で死亡しますが、翌年に第二部が発表されます。実に60年間も温めてきたテーマであり、まさに「ファウスト」はゲーテのライフワークでした。第二部では、ファウストは悪魔の力を借りて、古代ギリシアの女神ヘレネを妻とし、さらに皇帝に仕えて理想国家の建設を目指し、海を埋め立てて「自由の土地」を造ろうとしたりします。このように悪魔の力を借りて現世で行おうとしたことも、結局彼に満足を与えることができず、虚しさの中で死んでいきます。そこで悪魔は、契約に従ってファウストの魂を受け取ろうとしますが、神はファウストを天国に受け入れます。それを可能にしたのは、グレートヘンの祈りによるものだということです。
私は、ゲーテの「ファウスト」を読んでいませんので、ゲーテが何を言おうとしているのか、よく分かりません。完全に勉強不足です。第二部は、ゲーテ自身の魂の格闘の物語なのかもしれません。
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