2015年9月23日水曜日

「アイルランド史入門」を読んで

シェイマス・マコール著(1982)、大渕敦子・山奥景子訳、明石書店(1996)
 本書は、原文で60ページほどの小著ですが、アイルランドに人類が住みついてから、アイルランド共和政の成立までの歴史を、簡潔にまとめています。私は過去にアイルランドに関する本を何冊も読んだのですが、ほとんどがアイルランド紛争に関する本で、中世以前のアイルランドについてはほとんど知りませんでした。本書の著者は、ケルト史の専門家だそうですので、古い時代のアイルランドについて比較的詳しく述べています。本書における著者の意図は、アイルランドにも良い所があるということを知ってもらいたいということで、アイルランドへの強い愛情のもとに本書が執筆されました。
 アイルランドは、ローマ帝国の支配を受けることはありませんでしたが、その文化の影響を強く受け、高い文化を発展させるとともに、かなり高度な行政組織も形成されていたそうです。そして5世紀にキリスト教が伝えられると、6世紀と7世紀には修道院を中心としてアイルランド独自の芸術、学問、文化が開花しました。この頃ブリテン島やヨーロッパ大陸では、民族移動で文化は荒廃し、キリスト教も後退していました。そういう中で、アイルランドの聖コロンバは、ブリテン島に修道院を建設してキリスト教の復興に努め、さらにその弟子たちは西ヨーロッパにまでアイルランド系修道院の普及と文化の復興に努めたそうです。つまりゲルマン民族の移動で大混乱に陥ったヨーロッパにおいて、アイルランドの修道士はキリスト教と文化の復興に大きな役割を果たしということです。

 中世のアイルランドには統一的政権が形成されず、内部紛争を繰り返したこともあって、しだいにイングランドの支配を受けるようになります。これに対してアイルランドは、繰り返し反乱を起こし、繰り返し征服され、繰り返し立ち上がってきます。本書では、そうしたアイルランドの姿が、愛情を込めて描かれています。

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